営業とは売らないこと

孫と水辺で2

from 杉本

「お前とこの、営業担当者なあ、何とかしてくれ!」

「先生、何かご迷惑をおかけしていますか?」

「あいつ、いつも売りに来るんや!」

私は、ある時期、
外資系の医療機器会社で、
営業トレーニングの統括をしていました。

延べ数百名の営業担当者をトレーニングする中で、
成功している担当者と、
そうでない担当者には、
明らかな違いがあったのです。

それは、成功している担当者は、
売ろうとしないのです。

それに対して、成功していない担当者は、
製品を一生懸命売ろうとするのです。

一例をご紹介しましょう。

岡山県全域を担当しているAさんは、
手術室から出て来たドクターが、ソファーに座って、

「この間の外科学会の抄録(発表文献の抜き書き)、
 誰か持ってないかな〜?」

というつぶやきを聞きました。

彼は、すぐに病院を出て、携帯電話で
東京本社のマーケティング部に電話しました。

「この間の、外科学会の抄録を持ってますか?」

「うん、持ってるよ。」

「今すぐ、新幹線便で送ってもらえますか?」

彼は、何時の新幹線便に乗せたかを確認して、
岡山駅に向かいました。

駅の受け取り窓口で、抄録の入った封筒を受け取り、
急いで、その病院に帰ります。

彼は、そのドクターを捜して、

「先生、抄録持ってきました。」

「ええ〜っ!午前中に話していた、あれかい?」

「はい、そうです。本社のマーケティング部が、
 持っていたので送ってもらいました。」

「悪いな〜。世話かけて。」

ドクターがつぶやいていたとき、
競合他社の営業担当者も何人かいました。

彼らも聞いていたはずです。

恐らく、何日か後の、
彼らの訪問予定日にでも、
持って来るのだと思います。

「先生、私が責任を持って、持参いたします。」
と豪語していた人もいました。

でも、その日のうちに、
持って来た人は、
彼だけだったのです。

学会の抄録を持っていくのは、
製品を売ることではありません。

しかし、これは大きなセールスなのです。

彼は自分を売っているのです。

言葉を変えて言えば、
第一に、顧客と信頼関係を築いているのです。

ただ、こんなことは、入社のときに、
私が口を酸っぱくして、
全員に、さんざん教えています。

しかし、多くの営業担当者は、
我慢できずに、すぐに、売ろうとするのです。

売ろうとすると、
自分のしゃべろうとする、
セリフのことで、頭がいっぱいになります。

すると、顧客の話していることが、
心にちゃんと留まらないのです。

すると、顧客は、自分に対して、
心からの関心を示していないことに気づきます。

ですから、顧客も相手に、
心からの関心を示そうとしません。

しかし、Aさんは、まず顧客が何を望んでいるのかを
知るために、熱心に相手の話を聴きます。

「聞く」は「聞こえてくる」の聞くですが、
「聴く」は、
文字通り、耳と、目と、心で聴こうと努力することです。

小さな望みでも、見つけたら、
それを、ライバルに先駆けて、
顧客の予想を超える、内容とスピードで
それを達成して上げるのです。

すると、顧客は、
恩を受けた分だけですが、
それを返そうと思って、
小額でも、自社製品を採用してくれます。

信頼が深まれば、もっと顧客は、
恩返しがしたくなり、
製品をたくさん買ってくれるのです。

「相手が自分に何をしてくれるか?」

ではなく、

「まず自分が、相手に、
 何をしてあげられるか?」

ですよね。

育自コンサルタント
−自分を育てるお手伝い−

杉本恵洋(すぎもと しげひろ)

PS.
コミュニケーションについても
「7つの習慣」から学ぶ事ができます。
http://www.nextleader.jp/the7habits/movie/

4 thoughts on “営業とは売らないこと

  1. これ、小さな大衆薬の業界ですが、
    己の経験とオーバーラップする事があります。同じ様な処方の薬であれば 顧客は何でも良いんです。気の利く、または訪問回数の多い営業から顧客は購入するケースが殆どでした。

  2. 「聴く」ということはどういうことか、すごく分かりやすい説明だと思います。
    ありがとうございました。

  3. 相手が何に興味と関心を持っているか、目と耳と心を傾ける。鍛錬中です。

  4. 優秀な営業は「ありがとう」と言う言葉をたくさんもらっていますよね。身近にこれを体現している方がいます。腰も低く、言葉も丁寧で、この人がトップセールス?と思ってしまうような方です。確かに、びっくりするくらい他人のことを知っています。良く見ているんでしょうね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>